2019年末に中国湖北省武漢市で人への感染が始まったと言われている新型コロナウイルスは、その後半年で世界中に蔓延しています。ウイルスに感染しても症状が出ない人や軽症の人が多いため、感染者の日常の行動によりウイルスが運ばれ、人から人へと伝播し、経済活動の継続と共に、日本も世界中でもウイルス感染が止まらない状況です。
有効な治療薬やワクチンの開発を待たなければいけない現在、日常の感染防止対策はマスクをつけて行動、手洗い消毒の徹底、そして3つの密、密閉空間、密集場所、密接場面を避けることと言われています。
その3密のうち密閉空間と密集場所は、現在の都市で人々が集まり活動する場所そのものです。欧米では19世紀末から日本では戦後復興から、都市に経済活動と人口が集中し、さらに増大し続け、よく多くの人を効率よく収容できるオフィスや商業・娯楽施設、医療・福祉施設などの建物が造られてきました。感染症の歴史は古く、その疫学研究から都市計画と建築の分野の先人達は多くを学び、感染防止の技術を開発し、都市と建築造りに実行してきました。上下水道整備と建物内の給排水設備の普及、空調換気設備の向上、採光の確保など、現在の建築基準法の設備基準や衛生基準は過去の感染症対策を基としていると言えます。
しかし近年は医療の進歩、生活の衛生化と栄養状態が向上し、多くの感染症は撲滅され、季節性インフルエンザを除いて感染症は過去のものと意識されるようになり、建物の用途や規模、収容人員に応じて設備基準と衛生基準を満たせば、密閉空間や密集場所は何処にでも、ますます大規模なものが造られるようになりました。
新型コロナウイルス感染拡大の状況は、現在の都市と建築のあり方に対して根本的な問いを発しているように思います。